燃料電池と熱

横浜国立大学大学院工学研究院 太田健一郎

1.はじめに

燃料電池とは外部から燃料と酸化剤を連続的に補給しつつ、化学反応により得られる自由エネルギー変化を電気エネルギーに変換するシステムである。燃料電池はこれまで、高い発電効率が期待されて、環境に優しいシステムと考えられている。この燃料電池では電気とともに熱が発生し、この管理と利用がシステムとして欠かせないものになって生きている。ここでは、この燃料電池から発生する熱に関し、少し考えて見ることにする。

2.燃料電池の用途

分散型電源として電気のみをとることを考えたシステムでは高温形の溶融炭酸塩形燃料電池あるいは固体酸化物形燃料電池が使われるであろう。これらも電池の廃熱を利用してスチームタービン、ガスタービンとの複合発電を行い、発電効率を高めることが考えられている。ただし、燃料電池単独で高い発電効率が得られるのが理想であることは忘れてはならない。

熱併給、コジェネレーションをねらった分散型電源としてはリン酸形燃料電池、固体高分子形燃料電池の両者が考えられる。数十kW以上のやや大きな燃料電池では熱の効率的利用を考えるべきで、現状の技術ではリン酸形の廃熱温度が高く、利用価値が高い。ここでは小型エンジン、マイクロタービンとの技術競争になる。数kW以下の小型のものでは、他のシステムに比べて燃料電池の発電効率はかなり高い。お湯の利用を含めれば、総合エネルギー効率も大型ガスタービン以上になる。この大きさでは安価で小型の固体高分子形が向いていると考えられる。

移動用、電気自動車用電源としての固体高分子形燃料電池は世界各国の自動車メーカーが開発競争をしているところである。高性能イオン交換膜の出現により、燃料電池の出力密度が実用域に近づいたためである。しかし、真に実用化を果たすにはコスト、資源量の問題の他に、電池性能も一段と向上させる必要がある。

パソコン用、携帯電話用の電源としての燃料電池はマイクロ燃料電池と呼ばれている。燃料としてメタノールを用いるか、水素を用いるかは議論の分かれるところであるが、燃料携帯の容易性を考えると当面はメタノール利用で開発は進むと思われる。この電池は発電効率が低いので、廃熱を効果的に行う工夫が必要である。

3.燃料電池と熱工学

 燃料電池の利用に当たって、熱処理、熱利用に関することは大きな課題である。ここで具体例を2つばかり考えてみよう。

 燃料電池本体を熱の流れから見てみる。まず、燃料電池反応は発熱反応であり、反応の進行とともに熱が生ずる。さらに、電池内部に生ずる各種抵抗成分による発熱があり、通常はどの燃料電池でも冷却が必要である。特に高温、大型の燃料電池では燃料、空気の流し方によっては電極面内に温度分布が生ずる。これは反応の不均一を生み、スムースな電池運転の障害となる。これを防ぐには、適切な燃料あるいは空気の流路設計と熱管理が必要である。650℃で運転される溶融炭酸塩形燃料電池の場合、たたみ一畳の大きさの電極で200段程度積層されたものの面内温度差を数十℃以下にするのは大変な技術と思う。

天然ガスを利用する定置形の固体高分子形燃料電池システムを考えると、天然ガスを改質して水素を得る部分の温度が最も高く700℃位である。さらに、シフト反応を利用するのは300℃、CO除去反応は120℃程度で行われる。燃料電池は80℃で運転され、得られる廃熱は60℃程度となっている。さらに燃料電池に供給する燃料ガスの加湿は75℃程度、空気の加湿は72℃程度で行われる。これらの温度条件は各所で起こる反応を制御するために正確に維持する必要がある。発熱反応、吸熱反応が混在する中で、空調機の室外機程度の大きさの中で熱損失を出来るだけ少なくする設計をするのは単純ではないはずである。

分散型燃料電池を考えたとき、その熱利用は大きな特徴であり、電池システムの適切な熱管理とともに熱損失を少なくして総合エネルギー効率を向上させることは二酸化炭素の排出量を減らし、環境に優しいエネルギー変換装置として必要なことである。一層の展開を期待したい。