サブゼロ温度蓄熱/高密度冷熱搬送技術

まえがき

潜熱を持つ流動型蓄熱材を用いることで、−3〜−5℃温度(以下、サブゼロ温度と称する)の冷熱供給に対して、ブラインよりも低粘度、高(熱)密度に冷熱を供給し、その搬送動力の省エネルギ化が可能になる。また、深夜電力利用や、熱の需要の時間的、空間的ギャップを埋めるため、サブゼロ蓄熱材に氷蓄熱技術を適用して冷熱供給システム全体の効率向上を図ることができる。

サブゼロ蓄熱材の特性

氷点およびサブゼロ温度の蓄熱には潜熱量が大きな氷を用いることが熱密度的観点から有利である。サブゼロ温度の場合には添加剤の混入による凝固点降下を利用してサブゼロ温度を得る。凝固点降下を利用すると、凝固する固相率の増加と共に凝固点が更に低下するが、上記蓄熱温度の場合には5deg.程度の温度幅で潜熱の60%近くを利用することができるので、氷以外の物質を完全に凝固させる場合と比較しても蓄熱槽小型化の面で遜色無く、顕熱のみで蓄熱する場合と比較しても冷凍機の効率低下を防止することができる。

希釈水溶液の凝固点は溶媒の凝固点降下度を用いて表されるが、濃度が高い場合も含めると(1)式に示すClausius-Clapeyronの式によって計算することができる。計算によって求めたシステム適用範囲の水溶液液相線図を図1に示す。製氷に伴う水溶液濃度変化と固相率には(2)式の関係がある。初期蓄熱材濃度と温度降下時の固相率の関係を図2に示す。

lnCm −ΔHm / R×(1/ Tm 1/T0)           (1)

IPFm (Cm Ci) / Cm×100%                     (2)

 但し、


   Cm         :水溶液濃度 , wt%

   Ci          :初期水溶液濃度 , wt%

   Tm         :凝固点 , K

   Ti          :初期凝固点 , K

   T0          :水の凝固点 = 273.15K , K

   ΔHm    :融解潜熱 , kJ/kg

   R           :気体定数 , J/mol-K

   IPFm     :固相率 , wt%


  

サブゼロ蓄熱/熱搬送システム

(1)直接過冷却式製氷

流動性のある氷を生成するためにはシャーベット氷水を生成する必要があり、搬送に適した氷水性状とするためには過冷却解除式が一般的である。過冷却水を生成する過冷却器を冷凍機蒸発器と一体化した直接式過冷却器は中間ブラインを使用しないためシステム効率が高い特徴を持つ。

直接過冷却式氷蓄熱システムのフローを図3に示す。冷凍機の蒸発器(過冷却器)にサブゼロ蓄熱材を直接導入し、過冷却状態まで冷却させる。過冷却器を通過した過冷却水溶液は旋回流を発生させる過冷却解除器で過冷却状態を解除してシャーベット状氷水溶液となり、氷水搬送配管を通って蓄熱槽に貯氷される。前述の通り、製氷に伴う水溶液濃度変化により凝固点が下がるが、その際にも過冷却器における過冷却度は保持できるので、冷凍機温度制御を組み込むことで氷蓄熱システムを利用することが可能である。図4に水溶液濃度変化と過冷却度との関係を示す。

(2)高密度冷熱供給

蓄熱槽に貯蔵された氷水を取出し機構により搬送系に送出する。水溶液の氷結晶は、その結晶間に高濃度水溶液が存在することから、結晶の凝集が起こりにくく搬送に適している。IPFIce Packing Factor20wt%の氷水は往還温度差3deg.の場合に約70kJ/kgの熱密度を持ち、ポンプ搬送動力を約1/5に低減することができる。エタノール系ブラインを用いたサブゼロ蓄熱材はグリコール系ブラインよりも低粘度であり、搬送動力の削減効果が高い。図5にサブゼロ温度氷水の搬送状況を示す。固相率が20wt%に近い状態では白濁状の様相を示している。

  

4.あとがき

サブゼロ蓄熱材を用いた蓄熱・高密度冷熱供給システムの概要を示した。氷蓄熱と同様に直接過冷却解除式の氷水スラリー製造が可能であり、蓄熱槽から氷水を取り出すことで高密度冷熱供給が可能となる。実用化に対して、@搬送・融解特性の把握、A冷熱負荷変動に対する制御性評価、が今後の課題である。

以上