部門合同オーガナイズドセッション(流体工学部門 / 熱工学部門)


J-11「量子・分子熱流体工学 (Quantum and Molecular Thermofluid Engineering)」

オーガナイザ:新美 智秀(名古屋大学),井上 剛良(東京工業大学),南部 健一(東北大学流体科学研究所)

報告:新美 智秀 (名古屋大学)


 気体流の希薄度を表わす重要な無次元パラメータとしてクヌッセン数(Kn : Knudsen number)があり,平均自由行程lと流れ場の代表長さL を用いてKn =l /Lで定義されます.一般にKnが0.01を超えると,気体流は連続体として近似できず,原子・分子の流れとして扱わなくてはなりません.高真空を利用する半導体薄膜製造などの平均自由行程が大きい場での製品開発はもちろんのこと,大気圧下でも代表長さが数十nm程度になるMEMSやNEMS (Micro/ Nano Electro Mechanical Systems) に代表されるナノ・マイクロデバイス近傍の流れ場も,高クヌッセン数流れとなります.高クヌッセン数流れにおいては,平均自由行程が大きい場合には分子間衝突数が極端に減少して気体流中に強い非平衡現象が発現し,代表長さが極端に小さい場合には気体分子は他の気体分子よりも固体表面と数多く衝突するため,流れ場が固体表面の影響を強く受けることになります.したがって,高クヌッセン数流れの熱流体解析には,原子・分子レベルまたは量子力学をも考慮した解析が必要となります.

 このような背景のもとで、ナノ・マイクロデバイス開発などの先端技術において重要な種々の流れ場の本質的な理解には,量子・分子レベルから調査することが求められ,平成14年4月にP-SCC1『量子・分子熱流体工学に関する調査研究分科会』を流体工学部門(幹事部門),熱工学部門,計算力学部門,宇宙工学部門で協同して発足させました(主査:新美智秀,幹事:井上剛良).この調査研究分科会の研究成果を広く公表するために,流体工学部門と熱工学部門合同のOS「量子・分子熱流体工学」を日本機械学会2003年度年次大会(徳島大学)に続いて2004年度年次大会(北海道大学)においても企画いたしました.今回のOSでは,DSMCによるプラズマおよび薄膜形成プロセスのシミュレーション,DSMCの新しい衝突計算法,シミュレーションによる熱流体物性算出,界面での吸着分子の挙動・エネルギ伝達に関するMD解析,マイクロ・ナノ構造物における気体分子との相互作用・流動特性,高分子の分子シミュレーション,2原子分子振動緩和・衝突モデルの構築,非平衡希薄気体流の計測法などに関連した19件の講演発表が行われ,活発な討論が行われました.

 2005年度年次大会(電気通信大学)においても,井上剛良先生を中心に「量子・分子熱流体工学」のOSを企画いたします.この分野の研究を推進しておられる関係各位の積極的なご参加をお願い申し上げます.