第83期部門長あいさつ

西尾 茂文

第83期熱工学部門長
東京大学 理事・副学長(教授)
生産技術研究所 機械・生体部門
nishios@iis.u-tokyo.ac.jp

 第82期部門長の牧野俊郎先生の後を引き継ぎ、第83期熱工学部門長を仰せつかりました。本年4月より大学の運営に携わっており、時間的制約を受けておりますが、可能な限り頑張りたいと思いますので、宜しくお願い申し上げます。
 熱工学部門の活動として課題と思っていることを3例だけ述べさせていただき、ご挨拶に代えたいと思います。以下では、私が専門とする伝熱学に関する例を引用しますが、熱力学・熱物性・燃焼学など伝熱学以外を専門とされる場合は、その分野の例に置き換えて考えてくだされば幸いです。
 第一の課題として、「論争」を挙げたいと思います。部門の活性を図るメジャーの一つは、部門が抱える「論争」の数であろうかと思います。伝熱分野では、超臨界領域における論争(主として東大・九大の間の論争)や限界熱流束に関する論争(主として東大・東工大の間の論争)が過去の大論争として例示できると思います。私の不勉強のせいかもしれませんが、最近の熱工学分野では論争が少なくなってきているような気がいたします。例えば、マイクロ熱工学あるいはナノ熱工学などは魅力的領域と思いますが、これらの領域における現象や法則を見るとき、これらの領域の特徴を明確にすることが重要と思います。私は、熱力学で言う局所平衡の概念は成立するがマクロ系では埋もれている力や効果が顕在化する系を取り扱う場合をマイクロ熱工学、局所平衡の概念が成立しない系を扱う場合をナノ熱工学と称しています。こうした認識に関する論争を初めとして、概念や現象あるいはモデル等に関する論争が活発に行われることを期待したいと思います。
 第二に、「限界突破」に関する課題を挙げたいと思います。学術活動はそもそも自由であるべきですが、部門として活動する際には、問題意識の共有化が必要であると思います。熱工学が対象とする技術には、上で述べたマイクロ熱工学やナノ熱工学のようにどのような技術が生まれてくるか自体がよくわからない技術の他に、エネルギー技術などのように成熟してきている技術や、電子機器の熱管理などのように従来の熱工学が扱ったことのない熱流束や温度変動管理を要求される技術などがあります。後の二者は、いわば限界を突破する技術と思います。どのような技術分野でどのような限界が問題となっているかについて具体的問題意識を共有化して、その限界の突破に向けた活動が活発に行われることを期待したいと思います。
 第三に、「英文論文誌」に関する課題を挙げたいと思います。機械学会は英文論文誌JSME Int. Journalを編集・発行しています。この英文論文誌のサーキュレーションはよくなく、またインパクトファクターも高くないことはよくご存じのことと思います。この論文誌が、部門編集のWEBジャーナル化されることとなり、熱工学部門及び流体工学部門が他の部門に先行して独自編集のWEBジャーナルを本年度中に編集・発行することとなりました。非会員もアクセスできるWEBジャーナルは、海外の研究者・技術者にも読まれる可能性が高く、ひいてはインパクトファクターの向上も期待でき、部門として積極的に準備を始めたいと思います。一方、熱工学に係わる他学協会でも独自の英文論文誌を発行している場合があります。我が国発の良質な英文論文誌を発行するためには、関連学協会の連携のもとでの編集・発行などが不可欠と思います。部門長として、熱工学関連の英文論文誌を関連学協会との連携の下で編集・発行できるよう努力したいと思います。