TED Plaza |
業務用厨房の作業環境改善のための技術開発について |
辻 英之東京ガス株式会社 技術開発部 ソリューション技術センター h-tsuji@tokyo-gas.co.jp |
|||||||||||||||||||||
1. はじめに 業務用厨房は外食産業を対象にした厨房である。外食産業は学校・病院・施設等の集団給食、ファミリーレストラン等の外食チェーン店、その他、喫茶・レストラン・居酒屋など多様な業態が存在する。現在、業務用厨房では、旧態依然のイメージ(熱い、掃除しにくい、汚い)が定着しており、未だそのイメージが払拭しきれていない。ここでは厨房の作業環境を改善し、これらのイメージを払拭するような技術開発の一部を紹介する。 2. 業務用厨房分野における技術開発 2.1 低輻射機器の開発 厨房の「熱い」といったイメージは厨房機器からの輻射熱によるところが大きい。しかし、現在では、輻射熱を低減した機器により、機器からの輻射熱は大幅に低減されている。内部炎口バーナー(図1、図2)を有するコンロは低輻射機器の一つである。火炎が中央に集中し外側に広がりにくいため、従来機器と比べおよそ30%の輻射熱の低減を実現した。また、内部炎口バーナーは従来バーナーより熱効率が10% ~ 20%高く、省エネ性に優れている。このような低輻射機器を厨房に導入することで「熱くない」快適な厨房を実現することが可能である。
2.2 清掃性向上型機器の開発 機器の清掃性を向上させることは、調理人の清掃作業の省力化のため、機器を開発するうえで重要な項目である。フライヤー(揚げ物器)は従来、清掃が困難であった機器のなかで清掃性が向上した機器の一つである。従来型のフライヤーの加熱方式は、油槽(揚げ物用油を入れる部分)内の熱交換パイプに燃焼排ガスを通過させる浸管加熱方式であった。浸管加熱方式は、熱交換パイプが油槽内に固定されているため、油槽内の清掃が困難である。そこで、熱交換パイプを使用せず、燃焼排ガスを油槽の外部両側壁を通過させたのちに油槽後部から排出させる加熱方式(側面加熱方式)を開発することで、油槽内の清掃性を向上させることに成功した。側面加熱方式では油槽側面と排気筒にフィンを配置しているため、熱効率は従来機種と比べ約10%向上している。
2.3 厨房換気特性の測定 厨房では調理に伴って水蒸気・油煙等の調理排気や、厨房機器からの燃焼排気が発生する。それらは、十分に室外へ排出されない場合、厨房内に残留し温熱環境や衛生状態に悪影響を及ぼす要因となる。したがって、それらが厨房内において一定量または一定濃度以下となるように換気量を設定することが必要となる。このような背景のもと、厨房環境を快適な状態に保つための必要な換気量を検討するという目的で、厨房を再現した実験室(図3、図4)にて基礎データを収集している。この実験室は、業務用厨房における換気と空調量の関係、輻射熱量、室内温度分布等を調査して、快適性を定量的に評価する目的で設立された。実験室の環境条件と主な仕様を表1 に示す。この実験室を使用した実験の一例として、換気量の差異による厨房環境の変化について紹介する。現在、ガス機器の換気量に関する設計基準は、建築基準法により定格発熱量に比例した換気量が定められている(式(1))。一方、電磁調理器等の電気調理器の場合では、酸素の消費や燃焼ガスの発生がないため法的な基準はなく、経験的に器具の発熱量あるいはフード入口の面風速を基準にした設計が行われており、一般に必要換気量の算定方法には式(2)が利用されている。まず、はじめに式(2) から算出した換気量に設定し、IH コンロ(10kW 相当)を使用し鍋に水を入れて沸騰状態にしたところ、調理排気漏れが原因と考えられる湿度の上昇により、厨房内のほぼ全体にわたって結露が発生した。次に、IH コンロと同等の処理能力をもつガスコンロの必要換気量を式(1)により算出し、同じ条件下で実験を行ったところ結露は発生しなかった。この結果は、厨房の環境を快適に保つためには、熱源に関わらずガス機器と同等の換気量が必要になることを示唆している。 (必要換気量) = 40 × k × Q・・・(1)
3. おわりに 低輻射式の機器や清掃性向上型の機器、厨房環境を快適に保つための適正な換気量の提案など、業務用厨房の作業環境改善のための技術開発を紹介した。今後もこれらの技術開発をさらに進展させることで、より快適な厨房を実現させたいと考えている。 |